あなたに捧げる不機嫌な口付け
よほど意外だったのか、諏訪さんがぽかんと固まった。


「泣き寝入り? 祐里恵が、泣き寝入り……?」

「何か問題が」

「問題だらけだろ!?」


びしい、と効果音つきで指差される。


「なんで泣き寝入りなんだよ抵抗しろよ、てか祐里恵が大人しく泣き寝入りするわけがない」

「……随分と失礼な」


諏訪さんは私を悪女かアマゾネスか何かと勘違いしているんじゃないだろうか。


私は至って普通の女子高校生なんだけど。


「もちろん必死に抵抗するよ。ちゃんとできる限りの対応もする。でもまあ元々、怖がって固まっちゃう線が強いしね。何もできないと思うよ」


語ったのは夢物語だ。空想だ。


現実はそれこそ甘くない。


「でも」


心配しすぎな諏訪さんに、そっと笑う。


登下校は友だちと一緒だし、時間帯や場所も考えてるし、諏訪さんの家は駅近くにあるから人通りが多いし、帰りは諏訪さんが送ってくれるし。


「大丈夫だよ、今はそうなりそうなの諏訪さんくらいだから」

「え、え?」

「諏訪さんはお人好しの部類だし、私は諏訪さんなら別にいいし、大丈夫」


少し捻くれているけど、諏訪さんは紛れもないお人好しだ。


「だから、大丈夫だよ」


近づいて顔を寄せると。


苦笑した諏訪さんが、キスをした。
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