あなたに捧げる不機嫌な口付け
なんで分からないんだ、と大真面目に見つめる。


「そんなのお人好ししかしないし言わないよ。お人好しがものすっごい大事に大事にしてる相手だから寸止めなの」

「お、おう」


お人好しか、もしくは立場があって駄目な人か、何かしら理由があるか。


「お人好しじゃなかったら据え膳食わない訳ないし、どうでもいい相手ならちょうどいい捌け口だし。まず嫌がれるはずがないでしょ」

「ええー……」


身も蓋もないんだけど、とか言う諏訪さんに真面目に続ける。


「そんなこと言っちゃうお人好しだったら万事楽に済むよ。怯ませて『くだらないこと言わないでよ』で心も粉砕で黒歴史にしちゃえば解決」

「……心は粉砕しちゃ駄目なんだよー、知ってるー祐里恵ー」

「いいに決まってるでしょ」


はっ、と鼻で笑った。


「いくらごめんって言われたって、押し倒されたらトラウマになる女子だっているんだよ」


目の前に男子が来た。塞がれた。動けない。怖い。


そういう思考は至極当然だ。


「たとえどんなにお人好しでも、おい何してんだお前ふざけんなって話」


お人好しだって、していいことと悪いことくらいある。

相手が好きな人ならなおさらだ。


好きな子いじめる子どもじゃないんだから、ちゃんと区別つけようか、って話だ。


「いや、うん、そうだけど、さあ」


しどろもどろな諏訪さんを不満たっぷりに見遣る。


「私はむしろ、なんで諏訪さんがそんなに引いてるのか疑問なんだけど。ノリノリで褒めてくれると思ったんだけど」

「自分が結構えげつないこと言ってる自覚ある!?」

「あるよ」


それに。


「こんな対処法じゃ、駄目な人がいるのも分かってる」

「……どうすんのさ」


どうするもこうするもない。


決まってるじゃないか。


「大人しく泣き寝入りする」


何も、できるわけがないなんてこと。
< 114 / 276 >

この作品をシェア

pagetop