あなたに捧げる不機嫌な口付け
私がシュークリームを買ったお店だというので思い返してみれば、お会計をしてくださったシェフはとても気のよさそうな方だった。


ほとんど一週間に一回、こんなに定期的にたくさん買い込んで、

しかも稀に見るイケメンだからと噂伝いに一目見たい女子高生なども訪れて、

諏訪さん目当てのはずが可愛らしく洗練された店内の雰囲気にノックアウト、

その美味しさと丁寧な対応から素敵なリピーターが倍増、売り切れ御礼と来たら。


たとえ本人が無自覚でも、それは感謝する。


結果だけを見れば、諏訪さんはとてつもなくお店の売り上げに貢献していることになるのだ。


そんな御得意様からちょっとした「お願い」をされたら、あの人なら絶対に断らないだろう。


季節感があって大振りで食べやすくて甘いの、とかどんな無茶振りだそれは、と頭を抱えたくなるような要望にも、精一杯応えてくれる。


少し前に地元のテレビ局で特集を組まれたようで、とても嬉しそうにしていた。


聞きつけた諏訪さんが、

「ほら、俺は地域に貢献してるんだよ。だからまた買わないと」

とかうそぶいていたけど、私をほだすついでに自分もお菓子が食べたいだけ、というかむしろ、自分のためじゃないだろうか。
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