あなたに捧げる不機嫌な口付け
「うおー、ほんとうまいなー、これ」

「そうだね」


諏訪さんがフィナンシェを褒めるのは、これで三回目。


毎度毎度きらっきらした目で買ってきて、きらっきらした目で眺め、放つオーラをきらっきらさせながら、ちみちみ食べる。


もう慣れた。


「うーまーいいー!」


慣れた。うん。


口内に広がる美味しさだけに意識を傾けて待つと、私の倍はかかってから、フォークを名残惜しげに置いた諏訪さん。


ようやくか。


コーヒーを傾ける私に倣うように、諏訪さんもカップを持ち上げて一口。


そういえばさ、と切り出した。


「祐里恵ってキャラメル食べられる?」

「食べられるよ」

「これいらない? いただきものなんだけどさ、俺キャラメル苦手なんだよね」


がさごそ持ってこられた紙袋に入っている箱は、いかにも高そうなキャラメル。


一口サイズに切り分けてあって、楊枝みたいなものもついているらしい。


「美味しそうだね」

「何かお高いらしいよー、俺も食べたかった」


はい、と押しつけられたそれをまじまじ眺める。


家に帰ったら早速食べよう。


「ありがたくいただくけど、諏訪さんあれだね。キャラメル色の髪の毛してるくせしてキャラメルに失礼だね」

「理不尽だ」


率直な感想を述べたのに、むす、といじけた諏訪さんがフィナンシェをもう一つ頬張った。
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