あなたに捧げる不機嫌な口付け
「……一目、惚れ……しました」

「…………」


この、目つきが怖いとばかり評される顔に、一目惚れ? え、本当に?


なんて稀有な人なんだ。


お付き合いしてもいいかもしれない、なんて現金なことを思う。


うーん、でもこの人、どこで会ったんだっけ。


隣のクラス、隣のクラス……廊下かな。


前に廊下で何か恋が始まりそうなこと起きたかな。


ん? ちょっと待って、ああ、そういえば。


何日か前に、諏訪さんから、「今日はガトーショコラだから来てね、絶対来てね」と誘われて。

大好きなブランド、しかも結構お高くて通販や取り寄せは対応していないところの、現地でしか買えない美味しいガトーショコラで。

楽しみすぎて朝から上機嫌だったものだから、いろいろ手伝ったかもしれない。


廊下ですれ違った困っている人とか先生とか、親しげに話しかけながら、珍しく満面の笑みで手伝ったかもしれない。


……え、それだけ? それだけで一目惚れ?


思いついた唯一の接点にびっくりした。


……ああ、駄目だ。多分駄目だ。


きっと合わない。
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