あなたに捧げる不機嫌な口付け
……は?


名前? なんで?


「……名前で呼ぶ意味が分からないんだけど」


ついでに言わせてもらうと、なんで私がダシに使われているのかも分からない。

急に不利になって、誤魔化して話題転換したいからって私を使わないで欲しい。


説明して、と目で訴えると、非難したわけでもないのに、諏訪さんは気まずそうに一瞬怯んだ。


ええい、しゃらくさい。


「す、わ、さん」


強く名前を呼ぶ。


早く言え、と促すと、やっと不敵な笑みっぽい何かを取り戻した諏訪さんが、一拍置いて唇を尖らせた。


「なんか不公平じゃん、俺は名前呼びなのに祐里恵はずっと諏訪さんでさ」

「別に不公平じゃないし、私は嫌じゃないしこのままでいい。面倒」


おかしな理由に即決で断る。


断ったんだけど、


「俺がやだ」


諏訪さんはむすりと呟いた。


「…………は?」


諦めるところじゃないの、なんでやだとか言ってるの。


「やだったらやだ」

「子どもか」


呆れる私。


だって、とか幼く言い訳する諏訪さん。


「今までは気にしてなかったんだけど、さっき呼ばれたときにいいなって思って」

「知らないよ……」


……どうやら私は、自分で自分の首を絞めていたらしい。
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