あなたに捧げる不機嫌な口付け
「呼んでよ、祐里恵」


諦めない諏訪さんが、すぐそばで、甘ったるくて直視できない雰囲気を貼りつけている。


懇願のような、無表情のような、笑みのような。


「ねえ、祐里恵。呼んで?」

「…………」


妖しい雰囲気に一瞬詰まる。


でもまあ諏訪さんだから、変なことにはしないでしょ。

名前くらいまあいいか。早くお昼食べたいし。


「恭介さん」


不純な動機で呼び名を改めた私に、諏訪さんはにっこり嬉しそうに頷いた。


何だかよく分からないけど、ひとまず満足したらしい。


「よしじゃあ早くお昼食べに行こう」


言いつつ諏訪さんの袖を引くと、引いた私の手が離れる前に両手を捕まえて私の動きを止めて、諏訪さんはやけに強張った口を開いた。


「祐里恵」

「何……」


なんで怒ってるの。満足したんじゃないの。


時間の無駄なんだけど。


「ご飯食べたいから、呼んだの……?」

「そうだけど」


事実それ以外に言いようがないので、否定しないで認めれば。


私の力では手を引いても動かない諏訪さんは、青白い顔で立ちすくんだ。
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