あなたに捧げる不機嫌な口付け
いかにも面倒臭そうな、たそがれた感じに辟易する。


どうしたの、何に拘ってるの。


……ああ、もしかして。


思いつきをまさかと笑い飛ばしたくなったけど、これ以外に諏訪さんが不機嫌な理由なんて見つからない。


「ご飯のためっていうのが嫌だったの?」


ないがしろにされたとでも思ったのだろうか。


そんなことはないんだけど、早く諏訪さんとご飯食べたかったんだよ。


私の問いかけには答えないで、諏訪さんは不機嫌な声で短く言った。


「恭介」

「は?」


それはまあ、あなたは恭介さんですけど。


無反応な私に焦れたように、再び。


「恭介」


ああつまり、さん、はいらない、と。


やっと理解して、でも、と無感動に首を振る。


「恭介さん、が限度」


敬称を外す気はなかった。呼び捨ては嫌だ。


この境界を、この一線を越えるつもりはない。


「恭介」

「恭介さん。これ以上粘るのはやめてくれると嬉しいかな」

「……うん」


少し眉を寄せた諏訪さんは、なあ、いいよな。と。


普段は避けている、珍しく荒い口調で宣言した。


主語なんて丸無視して、こちらを見据える。


「よくない」


嫌だとはっきり言ったにもかかわらず。


「……誰も、見てないから」

「見てるって。というか見えるって。ねえ、恭介さ」


腹いせのように、彼は噛みつくキスをした。
< 149 / 276 >

この作品をシェア

pagetop