あなたに捧げる不機嫌な口付け
「え? え?」


真っ赤になって混乱しながら、恭介さんは現実逃避をした。


「あ、あれだ、人としてってことだろ、うん」


混乱しています、と顔に書いてある恭介さんがしきりに頷くのを遮る。


「何一人で納得してるの、違うよ」

「は? ……な、にを」


誰が恭介さんの人となりなんか好きになるものか。


こんな意地悪でひどく甘ったるい嘘を吐く、大人。


「私から言わせるの?」


できる限りの思いを込めて大袈裟なほど眉を下げてみせると、恭介さんが強張った。


「ねえ。言わないと、分からないかな」

「ちょっと、ま」

「ひどいよ恭介さん」

「だから祐里恵待って……!」


慌てる様はいい気味だ。


ねえ恭介さん、知ってた?

私、自分から好きだなんて言ったことないんだ。告白なんてね、したことがない。


別に彼氏が欲しいわけではなかったし、自分の面倒臭さは自覚しているし。


何より、ああいいなあと思える人がいなかった。


でも、だけど。


私、恭介さんが好き。好きなんだよ。
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