あなたに捧げる不機嫌な口付け
落ち込んで、泣く泣く新しくパウンドケーキを出す恭介さんを横目に、着信を知らせたスマホを操作する。


……あ、間違った。


用心に越したことはないからと、パスワードを全部適当に別々に決めていると、たまに混乱するからいけない。


指紋認証は上手く反応してくれなくて時間がかかるから、人の視線があんまり気になるようなとき以外は四桁のパスワードにしている。


見ないように律儀に目を逸らしてくれていた恭介さんが、入力し直す私を横目に、まるでとてもいいことを思いついたかのような顔をした。


嫌な予感がする。なんて分かりやすいんだ。


「何?」

「パスワード俺の誕生日にしてよ。1111、覚えやすいし」


間違わないよ! とやけに推してくる恭介さんに首を振る。当然却下だ。


「確かにそうだけど駄目。簡単すぎる」


誕生日、十一月十一日だったんだ。知らなかった。


カレンダーを開いて一応メモをしておいた。


何かお祝いくらい渡そうか、と思って気づく。


……だから。


この間から何を考えてるの、私。


そんなの。


……しっかりしないと。
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