あなたに捧げる不機嫌な口付け
「何その変態的な顔は。私絶対してないし、そもそもキスして欲しくないし」

「えー、してたって。それに祐里恵、キスは好きでしょ?」

「好きじゃない」

「えー、嘘だー」

「好きじゃないってば」


嘘だ嘘だ、絶対嘘だ、と騒ぐ恭介さんのパウンドケーキを奪い去る。


子どもは理不尽なことに叫ぶから、大人になりたい私は理不尽には頭で対抗するのである。


とりあえず一切れ食べておいた。うん。美味しい。


「あああ何してんの!?」

「当然の報い」

「そこはこっち食べようよ!」

「いやなんで食べかけ食べなきゃいけないの。普通に嫌でしょ」


文句を言ったのは、少しでも私が食べるぶんを減らそうという算段かと思いきや。


「間接キスが……」


とか小癪なことを狙う恭介さんのうるさいそれを、のり出してキスで塞ぐ。


「これで間接。完璧」

「いや違うし。やっぱり祐里恵、キス好きだろ……」


どや顔の私に突っ込む恭介さん。うるさい。


「好きじゃない」

「いーや好きだね!」

「…………」


意味不明な風評被害を受けたので、とりあえず、恭介さんが手をつけていないもう一切れも奪っておいた。
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