あなたに捧げる不機嫌な口付け
一瞬、何を言われたのか理解し損ねて固まる。


――俺じゃ、駄目かな。


てっきり私は、このまま付き合っちゃおっか、とかそういう類いのことを言われるものだと思っていた。


もっと明るい調子で、ふわっと流せる余地がある類いのものだとばかり。


駄目かななんて、そんな答えを返さないわけにはいかない言葉をかけられるとは思ってもみなかった。


完全に予想外の言葉に、反応が遅れる。


「え、と」


……ああ、本当に。


恭介さんは私のことを知りすぎだ。

弱点を突くのが上手すぎる。


ほんとずるい。


予め予想立てて反応を決めておく私は、意外性に弱いのだ。


「急がないで、ちゃんと考えてくれると嬉しい」


念押しにゆるゆると首を振る。


考えるまでもなく、結論は出ている。


冷静なときにちゃんと何度も考えて考えて、そうして出した結論を、普段から決めてある。


言葉に詰まったのは、できるだけ柔らかく言うのに時間が欲しかっただけだ。


「ごめん」


切り出した言い出しに、恭介さんが肩を強張らせた。
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