あなたに捧げる不機嫌な口付け
なんて言えばいいんだろう。

なんて言えば、正確に語弊なく伝わるんだろう。


簡単には言えなくて、途切れ途切れになる聞きにくい私の言葉を、恭介さんは相槌も打たずにじっと聞いている。


恭介さんのことだ。


簡単にまとめたってきっと分かってくれるけど、複雑な心境を整理しながら、捻くれた心内をできる限りあかしてみる。


「ごめん、甘えるけど。……そういうのは、嫌」


このまま本当に付き合って、彼氏彼女になって、恭介さんに甘えるのは、きっとすごく楽だろう。


恭介さんに偽の彼氏になってもらうのは、煩わしい諸々を解決してくれるだろう。


だけど、恭介さんを利用するのは嫌だ。


まだ対等でいたい。まだ私でいたい。


「だから……、なんて、言うか」

「俺がいいって言わせてみろって?」

「……そんなところ、かな」

「了解」


にっ、と唇を吊りあげる恭介さんはやっぱり大人だ。


「……ごめん」


怯えているだけ。

逃げているだけ。

私が、ずるいだけ。


大人になりたいなんて口ぐせのように言っているくせに、土壇場になって幼稚な言い訳をしているだけだ。


ある意味で甘えている私は、ひどいやつだろう。


「謝らないでよ」


ぽんぽんと恭介さんの大きな手のひらが頭を往復する。
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