あなたに捧げる不機嫌な口付け
代わりに話題を探す。


まあ消えものだしいいか、と思い直して。


「恭介さん、二言はないよね」

「お、買わせてくれるんだ?」

「ん。リップクリーム買って」

「おっけー!」


リップクリームは使い終われば捨ててしまうものだ。消えものだ。


リップクリームを受け取ることはつまり、キスと、これからもこの部屋に来るのを容認することを指す。


でも具体的に意思表示したわけではないのだから、まあ、構わないだろう。


何も縛りにはならない。


「じゃあ、そのつもりでいるからよろしく。欲しくなったら言うから。ちなみにこれ買ってね」


手元で蜂蜜色のリップクリームを揺らすと、はいよー、と頷いて写真を撮る恭介さん。


「これで間違わない!」


ふふんとなぜか自慢げな恭介さんに、スマホのカレンダーを開きながら問いかける。


「で、来るのは明日でいいの?」

「……へ」


茶色の瞳を本当に本当に真ん丸にしたのがおかしくて、笑いがもれた。


「口実でしょ?」


恭介さんがねだったのなんて、明日の約束に決まっているのだ。


きっと、甘い匂いがするとか言ったときから。


「…………え、と」


苦く笑った恭介さんに、そっと笑いかける。


口実でしょう。口実に決まっている。


口実だって言って。


……他の可能性なんて知らない。


なくていい。

知らなくていい。


だから、これで正解なはずだ。
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