あなたに捧げる不機嫌な口付け
「……はー……びっくりしたあああ……」


すぐに恭介さんが少々大げさに溜め息を吐いた。


軽くてふわっとした口調に、ぱっと緊張が解ける。


あまりに分かりやすくて、あまりに込めた意図が明確で、お互いに突っ込まないでおこう、という合図だと思ったから、私も合わせて曖昧に流しておいた。


「祐里恵は俺のこと知りすぎ。ほんともう油断ならない」

「……そんなことない」


むしろ、そっちこそ、だ。


恭介さんこそが、油断できないほどに私のことを知りすぎている。


初めて会ったあの日、どうしてあんな約束なんかしてしまったんだろう。


ここのところ、毎日電話がかかってくる。


暇潰しの話し相手として私を呼ぶと決めたのだから、順当に考えれば暇なんだろうけど、随分多い。


あのモテる恭介さんから、本当に毎日毎日かかってくるのだ。


不用意に期待する。期待してしまう。


馬鹿だな。


……馬鹿だったな、私。


自分から言い出した約束事を翻せるほど、私は素直になれない。


ねえ。


本当は甘えてみたいって言ったら怒る?


あまりに悲しい確認で、声には出せなかった。
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