あなたに捧げる不機嫌な口付け
「髪、黒くしたんだね」


そっと目を遣ると、諏訪さんも私の目線をたどって自分の髪を見遣り、指先で前髪を混ぜた。


「まあ、うん。祐里恵が褒める芸能人は皆髪黒かったから。黒い方が好きなのかなって」


ああもう、やっぱりそんな理由だった。


偶々黒髪がさらさらで艶がある人たちばかりだっただけなんだけどな。


……本当、馬鹿だね。


「前の明るい髪色、綺麗な色だったし、すごく似合ってて好きだったよ」

「え!!」

「綺麗な髪っていうのはパサパサしてないってことだよ。艶があるとかそういう」

「あー……」


なんだ、と困った顔で笑う諏訪さんに、苦笑を返す。


「黒くしても素敵だけど、前の色は本当によく似合ってたと思うよ」

「……元の色の方が好き?」

「まあそうだね、好きだね。見慣れてるし」


もう柵はないからどんどん本心を言うと、私が褒めたことに心底驚いたように瞠目して、くしゃりと髪を掻き混ぜた。


好きなんて、冗談でも、人に向けなくても、私はほとんど口にしなかったから。
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