あなたに捧げる不機嫌な口付け
駄目な理由なんかない。あるはずがない。


だって、私こそ、この人の隣がずっと欲しかったのだ。


ずっと前から、たった一人だけの彼女になりたかったのだ。


でも、私たちは高校生と社会人で。


大人と子どもで。

年齢差だってあって。


本当に私が彼女になれるのか。

仮になれたとして、最後の彼女なのか。


「……駄目じゃ、ないけど」


返事を絞り出す。


「じゃあ言ってよ。俺は祐里恵が好き。祐里恵は違うの」

「違くないけどっ」

「うん。じゃあ、言って」


ひどく静かな声だった。


「っ」

「祐里恵」


喉が詰まる私の名前を、優しく呼ぶ。


ひどく泣きそうな声だった。


「祐里恵、言ってよ」


祈るような、声だった。


私まで泣きそうになって、二人ともの息が引きつれた。


湿った呼吸が響く。


震える唇を開いて、苦しい息を吸い。


「…………す、き」


もどかしく口にしたら。


「俺も、好きだよ」


距離を詰めた恭介さんが、その美しい顔と声が歪んでしまう前に、きつく私を抱き締めた。
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