あなたに捧げる不機嫌な口付け
「俺は忘れないから!」

「うん、私は忘れるね」

「は!? なんで!?」

「いいから早く選ぶ」


——だって、まるごと全部信じて後生大事に握り締めていたら、約束を破られたときに耐えられない。


私はあなたが隣にいないことに、きっと耐えられない。


目覚まし代わりの舌たるい呼び声を聞かないと、

隣で意地の悪い笑みを浮かべていてくれないと、

たまに、ふと、その優しさを感じないと。


もうそんな優しい生活にすっかり慣れてしまったから、きっと私の一日は始まらない。


来年は手作りして、なんて。小さくて、でも期間が長くて、確かな形の約束。


恭介さんがときどき思い出したように小さな約束を重ねるのは、怖がりな私が怯えているのに気づいているのかもしれなかった。


ずっと一緒にいたくて、一緒にいられるって信じたくて、でもやっぱり、どこかで少し疑ってしまう臆病な私を分かっているのかもしれなかった。


お互いに何も言わないけど、大抵の約束は、おどけた笑顔と共に結ばれる。それだけで充分だ。


ねえ。


頑張ってちゃんと全部信じるから。

きっと私も忘れないから。


……責任、とってよ。恭介さん。


私は恭介さんを見上げて祈った。




Fin.
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