あなたに捧げる不機嫌な口付け
コンビニのレジ袋とか、世慣れた女性とか、恭介さんはそういう後腐れのないものを好むように見える。


後処理に手間がかかるものは避けている節さえある。


それならどうして、高校生なんて明らかな面倒の塊をそばに置いているのだろうか。


まさか、ロリコンではないと思うけど。


「…………」


不穏な思考を掻き消して、心中鼻で笑う。


馬鹿か。アホらしい。


恭介さんが、そんな下らない理由で私を邪険に扱わないはずがない。


天地がひっくり返ったって有り得ないし、もし有り得たら、それは既に天変地異の前触れに決まっている。


……一人暮らしの男の家に、毎日のように転がり込む女子高生。


それだけ聞けば、眉をしかめられる行いかもしれない。


でも、世間からどんなに冷たい目で見られようとも、私と恭介さんの関係はそんなに甘やかで秘密めいてなんかいないのだ。


恭介さんは、掴もうと手を伸ばしても直前に行方をくらますような、ひどく捉えどころのない人だった。


「諏訪恭介」という名前と、成人していることくらいしか知らない男の人。


月日が経つうちに、好き嫌いとかくせとか、自然と見えてくるものはいくらかあったけど、与えられたのは二つだけ。


へらり、曖昧に笑う彼を追うことを、私は早々に諦めた。

元より、多くの情報を手に入れたいとは別段考えもしなかった。


話し相手のプライバシーなんて深く知らなくていい。二つも項目があれば充分足りる。


私の気負いのなさが、彼には都合がよかったらしい。


奇妙な日常は不思議と上手く回っていた。
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