あなたに捧げる不機嫌な口付け
肩を押して、ようやく離れた唇を引き離す。


大きく距離を取って、乱雑に袖口で口元を拭い、肩を怒らせて警戒体制に入った私に恭介さんは眉を下げた。


実にわざとらしい。


「まだ何も言ってないでしょ……!」

「言ったよ。『好きにすれば』だろ。祐里恵いっつもそれだから、覚えちゃった」


へらり、笑って私の眼光をかわす。


「…………」


まあ実際その通りなので、反応は渋々無言の肯定に落ち着いた。


子どもの牽制なんてどこ吹く風で、ひょうひょうとあしらわれるから嫌なのだ。


「それにさあ」


恭介さんが笑みを深めた。


大きな手が私の髪をすく。


服に染みついた煙草の香りは、その途端に濃度を増して、いつの間にか距離を詰められている。


「祐里恵、キスは好きでしょ」


ふざけたことを抜かす大人に反論する暇さえ与えてはくれずに、いいよな、と不遜にも目だけで問いかけて。


彼は私にキスをした。
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