あなたに捧げる不機嫌な口付け
いつになく真剣な態度が私を混乱させる。


「あげません。法に引っかかるし」


せっかく軽く言ったのに、まだ真面目な表情を崩さない恭介さんが、私の努力を無駄にする。


「合法ならいいわけ?」

「……駄目。初めては好きな人にあげるんだから」


ここでやっと通常運転に戻った恭介さんが、ええー、と唇を尖らせた。子どもか。


「遠回しに俺のこと好きじゃないって言ったー」


一応彼氏なのにぃ。


うざったく語尾を伸ばした発言に、密かに息が詰まる。


……私と恭介さんって、彼氏と彼女だったんだ。


無意識に落とされた定義は私を驚かせるには充分で。


案外ひどいことを考えているな、と思う。


この間柄に名前なんてないと信じていた。贅沢がすぎると。


もし名前なんて大袈裟なオプションがあるなら、私は選ばない。


今のこのぬるま湯に、都合よく回る狭い世界に。

煙草の匂いが濃い、いつものアパートの一室に。


ただの女子高生と大人、それしかいらない。
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