あなたに捧げる不機嫌な口付け
「恭介さんも人のこと言えないでしょ」


反論を試みる。


傍目には拗ねたように見える、その実冷めた頭は冷静に計算した。


「私だって、一応彼女なのに」


きっと返事はこうだろうという、可愛くない予想の通りに彼は答えた。


「だって事実じゃん」


——お前なんか好きじゃないよ。


ひどい副音声を分かりやすくもらして、あまりにもあっさりと、言った。


「知ってる。楽でいいでしょ?」


……恭介さんだからな。


それだけで納得して、不満も何もない私だって、似たり寄ったりなんだけど。


彼は先ほどの事態をもう話題に挙げなかった。


からかわれるかもしれない、と構えていなかったとは言わない。


……この人、意外に気遣いできたんだ。


なんて、強張った肩を落として、恋人にあるまじき感想を抱いた。


でも、やっぱり頭の片隅ではずっと意識していたのか、その夜、夢を見た。


懐かしい、出会ったときの夢だった。
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