あなたに捧げる不機嫌な口付け
一通り思いつく限りのことを述べると、メモを見返した諏訪さんが唸った。


「理想高いなあ、祐里恵」

「思い描くだけなら自由でしょ」


こちとら叶えたい理想でもないので気にしない。


うーん厳しいな、と呟いているのは、私が手厳しいのか、条件を満たすのが厳しいのか。


先ほどの、俺でも云々はさすがに冗談だろう。


内心訝しんでいると、重大な発見をしてしまって、焦った。


あああ、ええと、どうしようか。諏訪さん、もう食べ終わってる……!


通りで全然手を動かさないと思ったよ、よく目が合うわけだよ。暇だったんだよ気づこうよ私。


対するこちらはというと、まだもう一つアイスが残っているし、コーヒーも半分くらいしか飲んでいない。


急ぐのが正しいんだろうけど、ベリーは好きだからゆっくり味わいたかった。普段買いにくい高いものだし。


どうしようかと悩みながら、適当に相槌を打って話を膨らませる。


とにかく手をとめないで食べていると、会話の切れ目を縫って、唐突に諏訪さんが席を立った。


「ちょっとごめん」

「どうしたの?」


もしかしてもう帰るのだろうか。


諏訪さんは食べ終わったんだから、帰りたいのは当然と言えば当然かもしれない。


できればここで食べ切ってしまいたかったから、立てた予測に伏し目がちになるのを自覚する。


帰るなら、開けたばかりだけど蓋を閉めよう。

結露するのは袋があるからどうにかなる。


手を伸ばす私を止めるように、諏訪さんが微笑んだ。


「ねえ祐里恵、もう少しだけ一緒にいたいんだけど、時間大丈夫?」
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