あなたに捧げる不機嫌な口付け
「でさ、祐里恵」

「何」


密かに動揺してぐるぐる考えていた私を遮って、諏訪さんは眉を下げた。


「もしかしてさ」

「だから、何」

「俺……見ちゃいけないもの見た?」


その目は制服に向けられている。


——私は今までずっと、諏訪さんとは、私服で会っていたのだった。


今日は会うつもりじゃなかったからなあ。

でももう見られちゃったんだし、どうしようもない。


私の年齢は、こちらからわざわざ言うつもりはなかった。


だって急に「私、桐谷祐里恵、十七歳!」とか言われても戸惑うだろう。


話し相手をするだけのこの関係に、年齢なんていらないはずだ。


首を傾げる。


「どうかな。諏訪さん次第だと思うけど」


少なくとも私に非はない。

見られて困るようなことはしていない。


淡々と返した私に、諏訪さんは渋面を作った。


「高校生が夜遅くまで出歩いてたって、それだけで充分非はあると思うんだけど?」

「私はちゃんと帰ろうとしたし、あの時間は部活帰りならたまにある時間だし、私に特に非はないと思うよ」


飲酒もしていない。

途中で私服に着替えるように指示されたから着替えたけど、服なんて問題にならない。

何なら保護者になれる人もいた。


ただ大人に混じってご飯を食べただけだ。


諏訪さんはずっと隣にいたんだから、そのくらい分かっているでしょう。


「高校生とは言わなかった」


苦い表情を崩したけど、責めるような口調は相変わらずだ。


こちらも静かに言い返す。


「でも、大人だとも言わなかった」


だって、誰も私に年齢を聞かなかった。
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