あなたに捧げる不機嫌な口付け
会ったのはカラオケだ。


人数合わせに駆り出され、人付き合いもあって怠い体を動かして、作り笑顔を浮かべて自己紹介をした。


「桐谷祐里恵です。よろしくお願いします」


気合いの入った他の女性陣とは違って、私の自己紹介は極端に短く、乗り気じゃないのは伝わったのか、私は簡単に放置された。


そして、放置された人がもう一人。


入った瞬間、「……子どもは嫌いなんだけど」とか呟きやがった男だ。


明るい茶髪を綺麗に整えたその人は、面倒臭そうに下がりぎみの瞳をすがめた。


「……一人?」


騒がしい室内に低い声は似合わない。


聞こえなくて聞き返す。


「すみません、よく聞こえなくて。何ですか?」


一人? と。

彼はまた気だるくのたまって、でもやっぱり喧騒に掻き消されて、仕方がないから唇を読む。


「はい、そうですね」

「……ふーん」


ちら、とだけこちらを見て、すぐに視線を外す。


わざと放置してもらった私に会話なんてする気はなかったから、この一緒に放置されている人との会話も早く終わらないかな、と内心眉をしかめていた。


おざなりな返答に彼は何も文句もつけないまま、なぜかわずかに瞠目した。
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