あなたに捧げる不機嫌な口付け
「食べ物は?」


何か食べたら、と読みやすい向きにさりげなくメニューを滑らせる。


一緒に覗き込む辺り、苦手なタイプだ。


とりあえずさっと身を引いて端から眺めて、無難に頼む。


「唐揚げと烏龍茶お願いします」


ん、と頷いて、自分が一番近いからだろう、他の人の分も取りまとめて注文してくれた。


もしかしたら本当に食べたかったのかもしれないけど、自分も私と同じメニューにしたのは、彼の気遣いだろうか。


一人だけ飲まない私は明らかに浮いてしまっている。


よく分からない人だな、と思った。


適当に飲み食いして、いくつか組もできて。

さすがに二次会はお断りして。

外が真っ暗になってからやっと、お開きになった。


店を出たところで。


「桐谷ちゃん」


なぜか後ろ、それも結構近くから、私を呼ぶ声がした。


私の名前を覚えていそうな人はあの人しかいない。


何よりずっと話していたから声で分かってしまって、ちゃん付けにげんなりしつつ、渋々振り返る。


「……何ですか、諏訪さん」


不機嫌を押し殺して返事をしたけど、思ったよりも不機嫌な感じになってしまって、焦る。


彼――諏訪恭介。


私の内心なんて気にしないで、こちらに歩み寄ってさりげなく進路を塞ぎ、諏訪さんはへらりと笑った。


「ねえ、連絡先交換しよ? 祐里恵」
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