恋になる、その前に
本人が自己申告通りのさばけた女だって言うんなら、それはそれでも構いやしない。
けれど目を見開いたままで不意討ちのキスを受け止める彼女が、それほど男慣れしてるとも思えない。
何度目かの啄むようなキスのあと、咥内を探るようにキスを深めると彼女の甘やかな声がのどの奥から漏れて、苦しそうに息が乱れる。
そんな反応を引き出すことで気が晴れるなんて結構きてるなと、もうひとりの冷静な俺が頭の片隅で囁いた。
こと彼女に関しては傷口に付け入った自覚があるわけで、またひとつ、モヤッとしたものが腹のなかに蓄積されていく。
このひとは、危なげなほど自棄になっていたことを自覚してたのか。
分かってなさそうだよな、と心のなかで嘆息した。
俺とこんな関係を続けていること自体、イレギュラーな事柄だろうにそれすら認めようとしない。
ちょっとした偶然がなかったら、俺達は未だに『会社の同僚』程度の関係だったはず。
あの夜の偶然が全てのはじまりだった。
*
その日、得意先との打ち合わせが長引いた俺が自分のデスクに戻れたのは、就業時間を一時間ほど過ぎた頃だった。
すぐ帰れない忙しさは入社以来慢性的なもので、特に不満は感じない。
新人の半年間は先輩に付いて、仕事のやり方を覚えた。
そしてある程度の案件をまかせてもらえるようにになった今、たとえほかの人間に頼むのが可能な仕事であっても、出来上がりのクオリティーを下げるのが嫌で結局すべて自分でやってしまう。
けれど目を見開いたままで不意討ちのキスを受け止める彼女が、それほど男慣れしてるとも思えない。
何度目かの啄むようなキスのあと、咥内を探るようにキスを深めると彼女の甘やかな声がのどの奥から漏れて、苦しそうに息が乱れる。
そんな反応を引き出すことで気が晴れるなんて結構きてるなと、もうひとりの冷静な俺が頭の片隅で囁いた。
こと彼女に関しては傷口に付け入った自覚があるわけで、またひとつ、モヤッとしたものが腹のなかに蓄積されていく。
このひとは、危なげなほど自棄になっていたことを自覚してたのか。
分かってなさそうだよな、と心のなかで嘆息した。
俺とこんな関係を続けていること自体、イレギュラーな事柄だろうにそれすら認めようとしない。
ちょっとした偶然がなかったら、俺達は未だに『会社の同僚』程度の関係だったはず。
あの夜の偶然が全てのはじまりだった。
*
その日、得意先との打ち合わせが長引いた俺が自分のデスクに戻れたのは、就業時間を一時間ほど過ぎた頃だった。
すぐ帰れない忙しさは入社以来慢性的なもので、特に不満は感じない。
新人の半年間は先輩に付いて、仕事のやり方を覚えた。
そしてある程度の案件をまかせてもらえるようにになった今、たとえほかの人間に頼むのが可能な仕事であっても、出来上がりのクオリティーを下げるのが嫌で結局すべて自分でやってしまう。