京都チョコレート協奏曲
どんな言い方をしたのかは知らない。
いちくんは3回生の前期、文献至上主義への疑問を率直に口に出した。
そして東洋史グループで最年長の教授の機嫌を大いに損ねて、その教授が関連する講義の単位没収はもちろん、受講登録自体を全部なかったことにされた。
例の教授は、その前の世代に最も力のあった教授の娘と結婚したおかげで、出世もしたし絶大な影響力も手に入れた。
東洋史グループのほとんどの人間は、その教授に歯向かわない。
積極的にいちくんをいじめた人は、ほかにはいなかったようだけど。
という一連の話をしたら、平ちゃんは思いっ切り顔をしかめた。
「文学部って闇だな。古くせー。いっちー、よくドロップアウトしなかったな」
「勝教授に拾われたんだよ。あの人だけは、例の教授も手出しできない。政略結婚なんかせず、学閥主義と文献至上主義をぶっ壊しながらも教授の座に上り詰めた、本物の研究者だ。敵も多いらしいけど、いちくんを評価してるのは本当みたい」