京都チョコレート協奏曲
「そんだけ恩がありゃ、こき使われても文句言えねぇな。俺ら情報系にも学閥はあるけど、そこまで露骨じゃねぇし、実力さえあれば年功序列なんか引っ繰り返せるぞ」
「年功序列ね。日本史研究室のは固いな。古文書の崩し字読解は、先輩が後輩に1対1で教えるスタイルが伝統なんだけど、かつておれに教えてくれた博士課程《ドクター》の先輩より、今はおれのほうが圧倒的に読める。でも、研究室内の序列はあっちが上」
「ふぅん。無能なやつの下には付きたくねぇな。有能すぎる教授に首根っこ押さえられるのもどうかと思うけど」
「美人で優秀な後輩がいるし、いちくんは案外、悪く思ってないかもよ。うらやましい話だ」
「教え子に手ぇ出してる不良カテキョがよく言うぜ。口んとこ、グロス付いてるぞ」
「え、嘘!? マジで!?」
おれは思わず、口元に手をやった。
平ちゃんが爆笑する。
「嘘に決まってんだろ。引っ掛かんなよ」
「うわ」