京都チョコレート協奏曲
「コピーと製本って、『集史《ジャマール・タヴァリーク》』のか?」
〈はい。春休み中に先生が出られる研究会で必要になる部分があるのと、来年度の演習の課題も今のうちに刷っておくことになって。でも、これくらいの量なら、わたしひとりでも今日じゅうに終わると思いますから、斎藤先輩は剣道の練習……〉
「いい。すぐ行く」
時尾ちゃんの返事も聞かずに、いちくんは通話を切った。
頼まれたら断れないタイプのいちくんだけど、勝教授にはずいぶん巧みに操られているようで、ご愁傷さまだ。
「さすがいちくん、頼りになるね。まあ、かわいい子が困ってるところは見過ごせないか」
「……『集史《ジャマール・タヴァリーク》』って本は重いんだ。あれのコピーは、オレでも時間がかかる」
「14世紀に成立したペルシア語の文献って言ってたっけ。その読解の演習に付いていける学生はほとんどいなくて、授業は人文学研究所の助教クラスばっかりなんだろ?」
「あの演習で最後まで残った学生は、オレとあいつだけだ。だから何かと雑用が回ってくる。あいつひとりに任せてもおけない」