京都チョコレート協奏曲
「いちくんはもともと親切だけど、時尾ちゃんには特別優しいよね。そもそもの出会いからして、優しすぎるエピソードだし」
「は?」
「時尾ちゃんが緊張してうっかり会津弁を出しちゃったときに、いちくんがフォローしてあげたって、文学部ではけっこう有名になってるよ。あの子、旧家の出身のせいもあって実は訛りがきついんだってね。あれ? この話が知れ渡ってるの、気付いてなかった?」
クッキリ大きな目をさらに見張ったいちくんは、すごい勢いで真っ赤になった。
酒を飲んでも顔色が全然変わらないのに、こういうネタには一瞬で反応する。
おもしろすぎるって。
今年度の4月、例のペルシア語文献の演習で、最初に自己紹介の機会があったらしい。
3回生に上がったばかりで演習では最年少の時尾ちゃんは、緊張したり慌てたりすると、お国訛りの会津弁が出てしまう。
このときもそうだった。
会津訛りが聞き取れなかった勝教授たち一行はキョトンとして、時尾ちゃんはますます焦った。
けれど、いちくんは母方の実家が福島で会津弁を聞き慣れてるから、こともなげに会津弁で大丈夫という意味の「さすけねぇ」と言って時尾ちゃんをなだめて、落ち着かせてやった。