京都チョコレート協奏曲


駐輪場での別れ際、おれはいちくんに訊いてみた。



「今日は時尾ちゃんと会うチャンスがあった?」



「ちょうど行き違いになった」



「ああ、なるほど。だから勝教授は『今日じゅう』って条件を付けて、時尾ちゃんに仕事を言い付けたんだ」



「え?」



「今日、バレンタインだろ。時尾ちゃんの前では、その固いガード、緩めてやりなよ。実は期待してるでしょ、時尾ちゃんからプレゼントもらえるんじゃないかって」



「だっ……誰がそんな、期待なんかっ」



本日2度目の赤面。


しょっちゅうからかってるんだから、ちょっとくらい耐性が付いてもよさそうなのに。



いちくんは中学時代から浮いた話が皆無で、平ちゃんと一緒にひそかに心配してたんだけど、今年度に入ってようやく巡ってきた春は、傍から見てるとじれったくてしょうがない。


勝教授もせっかちなタイプだし、じれったく思ってるんだろうな。



おれは自転車にまたがって、デカい声で捨てゼリフを放り投げた。



「じゃ、ごゆっくり、お幸せにねー! リア充、爆発しろー!」



「ちょっ、総司!」


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