騎士団長殿下の愛した花

フェリチタは暫く瞑目した。それから近くの椅子を引き寄せて、とさりと腰を沈める。

「…………状況の説明を、お願いしてもよろしいですか」

フェリチタは遂にレイオウルの態度について考えるのを放棄した。

「あ、ああ。とりあえず水を飲むといい」

百面相をしていたフェリチタをじっと見つめていたレイオウルが頷いてとぽとぽととグラスに水を注ぐ。

フェリチタがグラスを受け取ろうとしたその拍子に、ほんの少しだけ指先が触れた。

「ありがとうござ…………」

フェリチタがちゃんとグラスを握る前にレイオウルがぱっと手を離した。ぎょっとするフェリチタの目の前の床で凄い音を立ててグラスが割れる。当然水浸しだ。

(えぇ……もう本当に意味がわからないんだけど、これ実は上げて下げるっていう高度な嫌がらせなの?)

唖然としながらレイオウルを見ると顔が真っ赤に染まっていた。彼は手を離したままのその姿勢で止まっている。良く見ると指先までほんのりと赤い……

そこまで確認したところで、ばたん!と壊れそうな勢いで扉が開いた。

「レイオウル様!ちょっと大丈夫ですか!」

飛び込んできたのは見たことのある青年だった。ヤーノと戦っていた……そうだ、確かレイオウルにドルステと呼ばれていた。

「何も無い、何も問題無いから気にしないで」

レイオウルはそう言いながらこちらに背を向けて立ち上がった。随分力強い口調だったが、ドルステが何か言いたそうに床とレイオウルとフェリチタとを代わる代わる見つめる。

「ドルステ、悪いけどあとは頼んだ」

「あとってどれです?全部……?」

床の惨劇と、状況を把握していなさそうなフェリチタを見てドルステが悲愴な顔をした。

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