騎士団長殿下の愛した花
それに構わず開きっぱなしの扉からレイオウルが出ていくと、すぐに「はっ!」と息を呑むような声が幾つも聞こえてきた。腰を上げてそっと覗くと何人かの男たちと目が合う。彼らは驚いたように見開かれるフェリチタの大きな瞳にバツの悪そうな顔をしてそっと視線をそらした。
「何故ここにいる。お前たちは、早く鍛練に行け。僕に勝てると言うなら免除するが」
「ま、まさか!申し訳ありません!」
かぁん!とレイオウルが無表情で踵を鳴らすと、男達は蜘蛛の子を散らすように凄い速さで走り去っていった。
(……こんなに怖い人だったの?私と話している時は、全然そんな風に感じなかったけど)
しかしこのまま放置されては大変だとフェリチタは慌てて「あの!」と呼びかける。レイオウルはこちらを振り返って視線をさまよわせたが、「いや、悪い、急務を思い出した。何か困ったことがあればまた呼んでほしい」とか何やら呟いて結局部屋から去っていってしまった。
それを見て、やっぱり怖い人ではない気がするな、とフェリチタは独りごちる。
(何だかむしろ可愛らしいというか……いかにも軍人様って体格だし表情も固くて厳しい感じなのに……って、いや何を考えてるの、どれほど美形でも敵には違いないのに)
顎に手をやって唸っていると、ドルステが床を拭くモップを手に取ってフェリチタに肩を竦めてみせた。
「全く困りますよねえ、団員扱いが雑で雑で」
「あ……床ぐらい拭きます」
捕虜のくせに働きもしない、と皮肉られたのかと思ったフェリチタは鋭い声を発して立ち上がる。それを見てドルステが慌てたように胸の前で手を振った。