騎士団長殿下の愛した花
ふわりと揺れたルウリエの高い位置で結えられた薄水色の髪を見つめながら、フェリチタは薄く笑った。
「私の世話係なんて、とんだ貧乏くじだね……」
(こんなに可愛らしいのに。だから気の強い他の侍女たちに押し付けられたのかも?)
自分の立場も忘れて不憫だと憐れむフェリチタの視線に目を瞬(しばた)いて、ルウリエは頬を膨らませた。顔の前でぱたぱたと手を左右に振る。
「貧乏くじですって?まさか。私はレイオウル王子殿下付きの侍女でございます。殿下直々のご命令で配属されたのですよ。他の侍女は知りませんが、殿下付きの侍女たちにはとても羨ましがられたのですよ?」
「ど、どうして?」
「それはもちろん、フェリチタ様の装いを決めることができるからでございます!煌めく長い銀の髪、憂いを湛える蒼穹の瞳、小さく美しい顔(かんばせ)……!私が選んだドレスを着て殿下の横に立たれる貴方様のお姿を想像すると……はぁ、絶対にお似合いでございます」
美しい?横に立つ?何を言っているのかさっぱりだったがフェリチタは取り敢えず一番言いたかったことだけはどうにか口にする。
「あの……私は森人ですよ?立場は捕虜ですし。少しはこう、抵抗とか」
「そんなの美しさの前ではまっったく関係ありません」
胸元で手を握り締めずいっと顔を寄せるルウリエにフェリチタは呆気に取られた。彼女達にはフェリチタの知らない侍女道があるのかもしれない。だからここに配属されたのか。
「……最後に一つおたずねしても?」
「ええ、何なりと。最後と言わずに何でもお聞きくださいませ」
話し方が落ち着いているし、一応参考人にされている私を世話するように言われているんだからそこそこに地位は高そうだし、何だか手の動きが少し古臭……と思いつつ、フェリチタは言いにくそうに頬をかいた。
「えーっと、お歳を伺っても宜しいですか」
「年齢ですか?今年で34になります」
(やっぱり……うそ、ほんとに?こんな可愛らしさで?……取り敢えず、ずるい)
人間にはフェリチタの知らない時間逆行の秘術でもあるのかもしれなかった。