騎士団長殿下の愛した花
何か言いたそうなフェリチタの様子を見てドルステがにこりと目を細めた。
「何か知りたいことがあれば、是非殿下におたずねください。きっと喜ばれますよ」
「何故ですか?」
「それは……ちょっと私からは言えません」
そう言って口元に立てた人差し指を当てる。
「とにかく。無理はしないでください。きっと殿下が貴方に言いたかったと思いますが、代わりにということで」
「……私、あの人の考えていることがよくわかりません」
だからあまり関わりたくないのだが、と言外に含めた事も、王子殿下を『あの人』と思わず呼んだこともドルステは咎めなかった。相変わらず困惑顔のフェリチタの疑問には答えずに悪戯っぽく微笑んだだけだった。
「先程、何故私の首が飛ぶのかと訊ねられましたね。それは、貴方の扱いの全権がレイオウル殿下に委ねられているからです。そして殿下は、体裁上捕虜とはしていますが貴方をあくまで『参考人』として扱うとおっしゃっています。
ですから、色々と詳しいことはまた後ほど殿下にお聞きくださいね?」
「わ、かりました」
殿下殿下と重ね重ね言われフェリチタはその圧力に頷く。ドルステは満足気な顔をした。
「息を呑むほど美しいのにそれだけではない。落ち着いた、とても芯の強いお方だ。ま、殿下が入れ込むのも少しわかりますね」
入れ込む?何の話か、と不思議そうな顔をするフェリチタに一度お辞儀すると部屋を出ていく。
ドルステが退室するのを待っていたのか、入れ替わるように1人の少女が入ってきた。歳の頃はおそらくフェリチタとそう変わらない。先程グラスを持って来てくれた侍女だった。
「フェリチタ=シャトヤンシー様でございますね。本日から身の回りのお世話をさせていただきます、ルウリエと申します。ルウとお呼びください、フェリチタ様。本日から宜しくお願い致します」