騎士団長殿下の愛した花
ひとしきり楽しんだ後、広い白石の橋の上でくるりと外套を靡かせたレイオウルが膝をついて少女に手を差し出した。
「お姫様、今夜は僕がエスコート致します。お手をどうぞ?」
「……もう……」
お祭りだから彼もテンションが上がっているのだろうか。フェリチタはとても嬉しそうに、楽しそうに、しかしほんの僅かだけ苦しそうに、微笑んだ。
……もう十分夢のような時間を過ごしているというのに、これ以上どこに連れていこうというのだろう?
フェリチタはそっと己の指先を彼の手に触れさせる。彼女にまだほんの少し残る躊躇いを打ち払うように、レイオウルは強く手を握り再び走り出す。
足を動かしながら懐中時計を取り出し、苦笑した。
「楽しすぎてうっかりしてた。間に合うといいんだけど」
「……え?」
フェリチタの疑問をかき消すように。
どおん、と。酷く大きな音がして、瞬間ぱっと視界が彩に埋められた。
一面の空を眩しく照らす大きな光の華。ばらぱらと落ちてくる光の粒。フェリチタは大きな瞳にそれを映して立ち止まる。
「これは……?」
「あーあ、やっぱり間に合わなかった。ちょっとごめん」
肩を竦めたレイオウルが彼女の膝の裏に手を差し込む。止める間もなく軽々と身体を持ち上げた。
「ちょ、ちょっと!何してるの下ろして!」
「どうして?」
「どうして、って……」
予想していなかった返答に狼狽する。そんな少女をさも当然と言わんばかりの仕草で腕の中に収めたまま、青年は顔を近づけてひとこと。
「僕はできる事ならずっとこうしていたいけどな」
「な……!」
恥ずかしさに身を捩っていたフェリチタは、彼の笑顔にとうとう羞恥の臨界点を超えて固まる。