騎士団長殿下の愛した花
(どうしてこの人は、こんなに……こんな風に……)
きっとわかっていないんだろう。こんな事をされたら、どれほど浮かれてしまうのか。
込み上げる感情に我慢できず小刻みに震えて、せめてこの思いが伝わればいいと、フェリチタは破れかぶれの気持ちでその首にぎゅうと腕を回した。
フェリチタを抱えたレイオウルの背を、華が咲く大きな音が追い掛ける。視界いっぱいに光の粉が舞い散る。フードの中から星屑を集めたように煌めく長い銀糸を無防備にたなびかせながら、少女はそれに魅入っていた。
人通りが減り、町の明かりが遠ざかっていく。
「良かった。クライマックスには間に合ったみたいだ」
微かに息を切らせたレイオウルに、見て、と囁かれフェリチタは彼の首に絡めていた腕を解き、地に足をつけ、顔を前に向けて。
そっと息を止めた。
視界を照らし続けていた光の華が、眼下に広がる湖に反射して輝きを増している。
大きな音が鼓膜を震わせる度、天と地と、境界の喪われた広大な漆黒のキャンパスに惜しげ無く光の欠片を零す。そのあまりの眩さに目を細めた。
「花火。一番綺麗な所で見せたかったんだ。約束したし」
「……約束?」
「………………?」
覚えが無いので首を傾げたフェリチタの視線の先で、レイオウルが不思議な表情をする。戸惑い、苦痛、焦燥、疑念、その後酷く困惑した、顔。
「なんでもない」
そう言って胸を押さえる手が微かに震えている。フェリチタが思わずその手に己の手を重ねると、強く抱き寄せられた。手だけではない、全身が震えている。