10年愛してくれた君へ
「酷いのはどっちよ」


「…え?」


授業で聞く高らかで綺麗な声ではなく、耳に届いたのは低く太みのある声。その静かな迫力に、私の先程までの勢いが衰えた。


「幼馴染だからって、何でも知ったフリをして。あの人のこと、一番傷つけているのは、果たして誰なんでしょうね」


言っている意味が全く理解できない。


春兄を傷つけている人?


この話を聞いて、他に誰がいるっていうの?



「ねぇ、今彼氏いるんでしょ?」


「それが何なんですか」


「春人とはどういう付き合いしているの?ただの幼馴染?」


遠回しに何かを探ろうとしてくる南さんにイライラが募る。余裕な素振りというのか、冷静さを保っているというのか、子供の私と大人の彼女との差を見せつけられているようで、劣等感に陥った。


「何が言いたいんですか。そうですよただの幼馴染です」


私は最近自分の気持ちに気づいてしまったけれど、春兄にとって私はただの幼馴染だ。


それを聞いたところで何になる?どうして私が責められているの?


様々な疑問が頭の中を飛び交うが、そこに怒りの感情も混ざりよくわからなくなっていく。


しかし、南さんはそれ以上何も言わず、伝票を取り立ち上がった。


そして去り際に一言。



「…あなたって、残酷な人ね」
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