エリート外科医の一途な求愛
各務先生のもう片方の手が、私の頬に触れた。
その手が耳の上に挿し込まれ、私の髪を指先に通しているのがわかる。


背筋がゾクゾクする。
危険な誘惑だとわかっているのに、甘い刺激がジンジンと全身を巡る。
私は、この手を振り払えない。


「わ、私」


俯いたまま、意を決して発した声は、喉に引っ掛かって掠れた。
それでも、私の髪を弄ぶ彼の手に自分の手を重ねて、そこから力を借りようとした。


「患者さんの命を救う各務先生の手、カッコいいなって思っただけじゃなくて」

「……え?」


短く聞き返されて、私は一度ゴクッと息をのんだ。
そして、思い切って彼の胸元から顔を上げる。


「あの手に私、抱き締められたんだって。そう思って、ドキドキして……」


言いながら、恥ずかしくて堪らなくなる。
見上げた各務先生が本当に驚いたように目を丸くしていたから、更に居た堪れない気持ちが煽られてしまう。


「っ……ははっ……」


なのに、各務先生は短く浅い息を吐いて笑った。
そして私の髪から手を離し、その手で口元を隠しながらクックッと笑う。


「な、なんで笑うの……」


あまりの恥ずかしさに、私は彼から顔を背けた。
だけど各務先生は肩を揺らして笑ったまま。


「ごめん。やっぱり君、可愛いね」


不意打ちのそんな言葉に、胸がドッキーンと大きく鳴った。
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