エリート外科医の一途な求愛
自分を落ち着けようとして、私は一度ゴクッと喉を鳴らして唾を飲んだ。


「そ、それなら、なおさら……!」

「あんなこと言われて治まるか。……頼むから、もうはぐらかすなよ」


だけど、すぐに遮られる。
私から大きく顔を背けて言い捨てる各務先生に、私の胸は更に大きく跳ね上がった。


「葉月」


唇の先で呟くように私の名前を呼びながら、各務先生が一歩大きく踏み出してきた。
俯いた私の額に胸がぶつかるくらい、彼がすごく近くにいるのがわかる。


どうしよう。絶対逃げるべきだ。
そう思うのに、私はまるで各務先生の瞳に射竦められたかのように、動けない。


頭の中でも血管が脈動するくらい、ドキドキしてる。
この場でどういう態度に出るべきか、冷静な判断が出来ない。


だって、逃げるってどうして?
そんな風に感じるのが、本当に自分の気持ちなのか、それとも酔ってるせいなのか、よくわからない。


口ごもったまま黙る私の手を離して、彼はその手を背中に回してくる。
腰を抱き寄せられて、耳元でも自分の血管の拍動が聞こえるような気がした。


「葉月」


再び私を呼ぶ声は、さっきよりちょっと焦れたように力がこもっている。


「嫌がることはしない。……今夜は、一緒にいてくれるだけでいいから」
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