エリート外科医の一途な求愛
その翌朝、医局に出勤するとすぐ、私は教授室に呼ばれた。
朝からなんだろう?と首を傾げながらドアをノックする。
すぐに『どうぞ』と返事が聞こえて、私はゆっくりドアを開けた。


「教授、おはようございます。お呼びでしょうか……」


そう言いながら中に入って、私はビクッと足を竦ませた。
教授のデスクの前には、白衣を着た各務先生と木山先生が二人で並んで立っていた。


「ああ、仁科さん。おはよう。出勤早々悪いね」


私に声を掛けてくれた教授は、いつもと変わった様子はない。
だから私は、この微妙な面子と空気に警戒しながらも、そっとデスクに近寄り頭を下げた。


背筋を伸ばして、私の前に立つ二人のドクターの横顔をそっと窺う。
取り澄ました表情で顎先を上げて顔を上向かせている木山先生に対して、各務先生はわずかに眉を寄せ、口元に軽く手を当てている。
何か逡巡している、そんな様子で、私の胸によくわからない不安が過った。


「教授、あの……」


各務先生の様子を気にしながら、私はそっと教授を窺うように訊ねた。
けれど教授の方はいつもと変わらず朗らかな様子で、デスクに肘をのせ、顔の前で両手の指を組み合わせている。


「実はね、仁科さん。来月各務君が出席予定だった学会ね、あれ、木山君に出てもらうことにしたから」

「……え?」
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