エリート外科医の一途な求愛
撮影前、スタイリストさんに髪をセットしてもらいながら、各務先生は高瀬さんの話を聞いて噴き出して笑った。


「媚びるねえ……。随分な言われ方だな。まあ、木山先生に好かれてるとは思いませんけどね」


ツンツンと髪を摘み上げられながら苦笑する各務先生に、高瀬さんは部屋の隅で腕組みしてちょっと豪快に笑い返した。


「私も木山先生の話を聞いて、やっかみにしか聞こえませんでしたけど」

「んー。多分、俺が邪魔したからですよ」


ヘアメイクさんに差し出された鏡を覗いて、各務先生が涼しげな様子で呟く。
高瀬さんはカメラテストの指示を出してから、『邪魔?』と各務先生に先を促す。


「この間、木山先生が仁科さんを食事に誘うの、邪魔したんですよ」


各務先生は、ちょっと意地悪に私に横目を流しながら、高瀬さんにそう答える。
私はギョッと目を剥いて、ずっと微妙に逸らしていた視線をまっすぐ各務先生に向けた。


「ちょっ……! 何を言うんですか、各務先生!」

「その上、俺が先に、仁科さんと食事に連れ出したから」


私を全く無視して続ける各務先生に、高瀬さんが『へえ?』とちょっと嫌らしい笑みを浮かべた。
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