エリート外科医の一途な求愛
その翌日。
赤坂の高級料亭で、午後七時から会食が行われた。


広い日本間の真ん中に置かれた、立派な黒檀のテーブル。
懐石料理は、色彩や品のいい盛り付けだけでなく、器にもビジュアル効果がある。


お店を手配したのは、もちろん高瀬さんたちだ。
さすがクリエイティブ職と、私はつい唸ってしまった。


今日の私は、場所が場所だけに、一応上品に見える水色のワンピース姿だ。
仕事中はハーフアップにしている髪も、今日はサラッとダウンスタイル。
料亭の女将さんが挨拶に来てくれた時、私と各務先生を見て、『美男美女でお似合いですね』なんて微笑んだ。


もちろん『美しい』と言われて悪い気はしない。
だけどそのせいで、『仁科さんの顔も出したいな』と高瀬さんがその気になってしまい、死にもの狂いで拒絶する羽目になった。


それでも抵抗の甲斐あって、今、カメラは私の後ろ。
そこからカメラがとらえるのは、もちろん各務先生だけだ。


私の向かい側、座布団の上で胡坐を掻いている各務先生は、見るからに上質そうな黒いスーツ姿だ。
とは言え、休日のせいかノーネクタイ。
この二日間の白衣姿とは違う砕けたラフさがあって、これまた高瀬さんを喜ばせた。
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