エリート外科医の一途な求愛
卑怯な男と余裕な男
その日の昼時。
いつもよりちょっと遅めの時間に、美奈ちゃんと、別の医局の早苗と三人で学食に向かった。
今日は朝から暑いせいもあるけれど、なんだかいろいろムカムカして、ほとんど食欲がない。


「え~、ざるそば? 葉月、それだけで足りるの?」


向かい側に座った早苗が、私のトレーを見て声を上げた。
夏場でも食欲がなくなるということはないんだろうか。
そう言う彼女のトレーには、ガッツリ重そうなカツ丼の器がのっている。


「平気」


一言短く返事をしながら、私はパキッと割り箸を割った。
麺つゆにわさびを溶き生姜とねぎをたっぷり入れて、くっ付いて解しにくい蕎麦と格闘を始める。


「ダイエットですか?」


隣から覗き込んでくる美奈ちゃんに、肩を竦めるだけで否定して見せる。


「葉月がその体型でダイエットとか、嫌味にしか聞こえないんだけど」


目の前でモリモリ食べ始める早苗の言葉はとりあえずスルーして、私はズズッとそばを啜った。


「確かに~。あ。なんか、木山先生が絶賛してましたよ。葉月さんのワンピース姿。『スタイルのいい女性がああいう服を着ると、目の保養になるね』って」

「え?」


ミートドリアをスプーンに乗せて、ふうふうと息を吹き掛ける美奈ちゃんに、私は短く聞き返した。
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