暗黒王子と危ない夜

そして多分、あたしが今一番伝えたかったのは、こういうことじゃなく。


自分を攻めてほしくない、無理をしてほしくない、傷ついてほしくない。


こんなにも胸が熱くなるのは、本多くんのことが好きだから、なんだって──。



「……ごめん、何でもない。今のは忘れてください……」



自分の足元を見る。

もうこんな話は終わりにしようと、次のセリフを探した。


本多くんは壁に背中をつけて、しばらく考え込むように宙を見つめていた。



「……生きてるの、怖いよ」


やがて吐き出されたのは、浮き沈みのない低い声。



「危ないことをやってる自覚はある。死ぬかもしれない状況にも慣れて、感覚もだいぶ麻痺してる。だけど、自分が特別に強いとも思わない」



決して顔を上げるとこなく、淡々と続ける。



「怖いのは自分が死ぬことじゃない。自分のせいで周りが苦しむこと……。生きていたら傷付けるのに、それでも、おれが死んだら守れない」


だから、とこぼして
本多くんは空を仰いだ。


「守られる前に自分で戦うんだよ」
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