暗黒王子と危ない夜


スマホを右手に持ち替え、あたしから遠ざける。


「そのスマホは七瀬くんが持っていて。時間をおいて、僕がまた電話を掛けるから。3コール以内に出なかったら萌葉チャンはただじゃ済まないよ」



機器を耳元から離されたから、本多くんのセリフは聞き取れない。



「要求は2つ。僕が次に電話を掛けるまでその場から動かないこと。そして、この状況を外部に漏らさないこと。本部から一歩でも外へ出たら萌葉チャンを犯す」



あたしを人質として手元に置いて、要求を続けていく。

たっぷりの自信と余裕が伝わってくる。

他人を傷付けられるのを、本多くんが何よりも恐れていること。恐らくこの男は知っている。



「そのスマホにはGPSが付いてるから、君の位置情報は手に取るようにわかる。……くれぐれも、出過ぎた真似はしないようにね」



もう一度喉の奥で笑い、電話を切った。


その場で待機しろというシンプルな内容の要求ではあったけれど、いやに上手く考えられているなと思う。


位置情報がばれてしまうため迂闊に動けない。


位置を把握されないようスマホを手放して動けば、2度目の電話に出ることができなくなる。


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