暗黒王子と危ない夜


時間がない。

深川が階段を下りていく。


下手なことを言えば、俺が七瀬より先に撃たれてしまう。

そんなことあってはならない。


守るんだ。七瀬は絶対に死なせない。



この階段はそのままエントランスに繋がっている。

きっと七瀬より、深川が先にたどり着く。



七瀬が現れたところを狙うつもりだ。その瞬間に引き金を引くつもりだ。

行動はすべて読めているのに、何もできない。

どうしたらいいかわからなかった。



深川が階段を下りきった。

俺は、残りの数段を残したまま動けない。



「琉生君? どうしたの」


返事さえできなかった。



「よかったね。これで僕たちは救われる。琉生君の苦しみもぜんぶ消してあげるからね」



自分の乱れた息づかいだけが聞こえる。

その数秒後、反対側から、静かな足音が響いてきた。



もうすぐ姿を見せる。

あの角から、曲がってくる。



七瀬、逃げて。

喉が張り付いて声が出ない。



あと3秒

2秒

1秒──



深川が銃を構えて、

心臓がドクリと脈打った。


俺は……


俺は、──────。

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