暗黒王子と危ない夜
どのくらい経っただろうか。
「──もういいよ、七瀬。そのへんにしておきな」
その声は、あたしたちの背後から聞こえてきた。
いつのまに人がいたんたろう。
気づかなかった。
反射的に振り向いた先に立っていたのは、予想外の人物。
その人の隣に、……灰田くんがいた。
なんで、この人がここに。
灰田くんがあたしに目を合わせてくる。
「もしかして慶一郎さんと会ったことあんの?
俺が呼んだんだけどさ」
そう言われて、もう一度、隣の男性を見る。
「やあ萌葉ちゃん。また会ったね」
「……慶一郎、さん」
そこでやっと思い出した。
たしか灰田くんのお父さんの会社を、慶一郎さんが引き継いだという話を聞いたことがあった。
「俺はおもしれぇ人間の下に就きたいんだ。本多を見てると、やっぱこっちかな〜って思ってさ」
それはつまり、味方になってくれたということ……?
とりあえず、ことが終わった。
ほっと息をつくと、一気に体の力が抜ける。
こちらに気づいた本多くんは驚いた顔をしたけれど、何も言わず、中島くんの元へ戻っていく。
皆、安心していた。
“ 終わった ” と誰もが思って、疑わなかった。
それは、ようやく体に力が戻り、立ち上がろうとしたとき。
ふと、目の端に、誰かの駆けていく姿が映り。
反射的に視線で追うと、その人物は床に落とされた深川の銃を拾い上げた。
「っ、おい……」
誰かの戸惑った声を合図にするように
彼は──引き金を、引いた。