コンパスと鍵と真紀子さん
Chap.1
*
ここのところ、父親との間柄はかなり良好。
周りの家庭の事情なんて知らないけれど、少なくとも私は良い方なんじゃないかなって思っている。
「本当に悪いね。」
「仕方ないでしょ、仕事なんだし。」
「いや、でも明日は実琴の…」
「だからしっかり働いて稼いで来て下さいな。
だいたい、一週間前から言ってたじゃん。」
「そうだけどな…」
「だから、いまさら気にしなくて良いから。」
「悪いね。」
父娘の仲が良好な原因の一つは、パパの優しさだ。
多分、というより絶対、かな。
いってらっしゃい、を玄関からして見送る。
パパは何度か振り向いて、申し訳なさ気に小さく笑う。